アビヤンガは、温めた薬用オイルを全身に塗布してなじませる、アーユルヴェーダの代表的な手技です。サロンで受ける本格的なものはセラピストが2人がかりで行うこともありますが、自分の手で行うセルフアビヤンガは、古典でも日課として挙げられてきました。
この記事では、家で行うことを前提に、オイルの選び方から手順、注意したい場面までを順に解説します。
なぜオイルを塗るのか
アーユルヴェーダでオイルが重視されるのは、ヴァータの性質と関係しています。ヴァータは軽い・冷たい・乾いた・動くという性質を持ち、これが増えすぎると、冷え、乾燥、落ち着かなさ、眠りの浅さとして現れやすいとされます。
油は、その反対の重い・温かい・しっとりした性質を持ちます。だからオイルを塗るという行為そのものが、ヴァータを鎮める方向に働くと考えられてきました。
サンスクリット語で油を意味するスネーハには、愛情という意味もあります。自分の体に触れて手当てをする時間そのものが養生である、という捉え方をされることもあります。
オイルを選ぶ
体質と季節で向くオイルは変わるとされます。
| 体質・状態 | 向くとされるオイル | 理由 |
|---|---|---|
| ヴァータが増えている | 太白ごま油 | 温める性質が強く、乾燥に向くとされる |
| ピッタが増えている | ココナッツオイル、ギー | 冷ます性質があるとされる |
| カパが増えている | 太白ごま油、マスタードオイル(少量) | 温めて動かす方向に働くとされる |
| 迷うとき・夏以外 | 太白ごま油 | もっとも汎用的に用いられてきた |
太白ごま油は、焙煎していない生の白ごま油のことです。香りの強い焙煎ごま油とは別物なので、購入時に確認してください。
伝統的にはキュアリング(一度加熱して冷ます下処理)を行うと説明されることがありますが、必須ではないという立場もあります。まずは加熱せずそのまま使い、続きそうなら試す、という順序で構いません。
手順
1. オイルを温める
小さな容器にその日使う分だけ取り、湯せんで人肌より少し温かい程度に温めます。熱くしすぎないこと。冷たいまま使うより、温めたほうがなじみが良いとされます。
2. 順番に塗っていく
体を上から下へ、次の要領で進めます。時間の目安は全身で10分から15分です。
- 頭皮:指の腹で少量を、円を描くように動かす(洗髪する日に行うと扱いやすい)
- 耳:耳の周りと耳たぶ。伝統的に重視される部位の一つ
- 顔・首:下から上へやさしく
- 腕・脚:長い骨に沿ってまっすぐ長く動かす
- 関節(肩・肘・膝・足首):円を描くように動かす
- お腹:時計回りに大きく。腸の走行に沿う向き
- 胸:中心から外へ
- 足裏:最後に、少し時間をかけて。眠りの質に関わる部位とされる
長い部分は直線、関節は円。この2つを覚えておけば、細かい手順を暗記しなくても形になります。
3. しばらく置く
塗り終えたら5分から15分ほど置きます。この時間に歯を磨く、舌磨きをする、ガンドゥーシャ(オイルプリング)を行う、といった朝の習慣を重ねると効率的です。
4. 温かいシャワーで流す
熱すぎない湯で流します。石けんを使いすぎると必要な油分まで落ちるため、全身をごしごし洗う必要はないとされます。浴室が滑りやすくなるので、足元には注意してください。
時間がない日の短縮版
全身をやる余裕がない日のほうが多いはずです。伝統的に重要とされてきた3か所だけでも意味があるとされます。
- 頭皮:考えごとが止まらないとき
- 耳:短時間で終わり、道具もいらない
- 足裏:夜、眠る前に。冷えと落ち着かなさに向くとされる
夜に足裏だけオイルを塗って靴下を履く、という形なら1分で終わります。続けやすさを優先するほうが、結果的にアビヤンガらしい効果に近づきます。
控えたほうがよい場面
古典でも、行わないほうがよい状況が明記されています。
- 発熱しているとき
- 消化不良のとき、アーマがたまっていると感じるとき(舌に厚い苔が出ているときなど)
- 食後すぐ
- 生理中
- 皮膚に傷や炎症があるとき
- 妊娠中(行う場合は専門家に相談してから)
体が重く、だるく、粘つくような感覚があるときは、油を足すとかえって重さが増すと考えられています。そういう日は白湯と軽い食事で消化を優先するほうが、伝統的な判断としては自然です。
生活の中での位置づけ
アビヤンガは単独の施術というより、1日の流れの一部として組み込まれてきました。朝のルーティン全体はディナチャリヤ完全ガイドにまとめています。より本格的な浄化を目的とするパンチャカルマでは、アビヤンガはその前処置として位置づけられます。
自分にどのオイルが向くか判断したい場合は、ドーシャ診断で今の傾向を確認してから、この記事の表に戻ってくると選びやすくなります。
本記事はアーユルヴェーダという伝統医学の考え方を知識として紹介するものであり、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。皮膚の疾患や持病のある方、妊娠中の方、治療中の方は、必ず医師などの専門家にご相談ください。
